【SSF】S級SF作品を探して

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット・ジュニア【ヒューゴー賞 1964年】

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カート・ヴォネガット・ジュニアの1964年ヒューゴー賞受賞作『猫のゆりかご』の、あらすじと感想です。ちなみに「猫のゆりかご」とは、日本でいうあやとりのことだそうです。

 

[評価 = A級] 

 

 

あらすじ

 

主人公ジョーナ

主人公ジョーナは作家である。彼は、広島に原爆が落とされたその日、人々がどのように過ごしていたかを本にまとめようと、取材を開始する。

 

「原爆の父」故ハニカー博士

取材の最初の対象にして最も重要な人物は、「原爆の父」と呼ばれる米国人科学者・故ハニカー博士である。ハニカー博士の人物像について、残された家族や勤務先の研究所の人々への取材を続けるうち、ジョーナはハニカー博士が存命中、「アイス・ナイン」の開発を実現していたことを確信する。

 

アイス・ナイン

水は、私たちが知るような温度・条件でしか氷にならない。この、私たちが知る氷を仮に「アイス・ワン」と呼んだとする。しかし水は、私たちが全く知らないような温度・条件でも氷に結晶する。そしてこの氷は、例えば融点が55度だったりという風に、私たちが知るような氷とは性質も全く別になる。このような氷が「アイスナイン」である。水をアイス・ナインに結晶させるには、キッカケになる物質、いわば「種」が必要である。アイス・ナインには一粒ほどの種があればよい。一度アイス・ナイン化を始めた水は、水が水に接する限り、連鎖的にどこまでもアイス・ナイン化を続けていく。

 

長男フランクリンを追って

孤島サン・ロレンゾ共和国へ ハニカー博士の取材を続けるうち、ジョーナはハニカー家の長男フランクリンが、孤島サン・ロレンゾ共和国で独裁者である大統領に継ぐ、ナンバー2の要職にあることを知る。ジョーナは取材のため、サン・ロレンゾ共和国を訪問する。

 

独裁者の大統領

この独裁者の大統領は、高齢で余命幾ばくもない人であった。彼は苦しみから自殺を選ぶが、自殺に服用したのがアイス・ナインの結晶であった。 ハニカー博士の死後、博士の子どもたちは、残された実験中のアイスナインを分割し、魔法瓶に入れて大切に保管していたのであった。ハニカー家の長男フランクリンは、このアイスナインのかけらと引き換えに、サン・ロレンゾ共和国での地位を買ったのであった。

 

「民主主義に殉じた百人の戦士の日」

記念式典の事故 この独裁者の大統領は、サン・ロレンゾ塔の断崖絶壁にそびえたつ塔を王宮としていた。この塔の土台に、「民主主義に殉じた百人の戦士の日」の記念式典を祝うサン・ロレンゾ共和国戦闘機の一機が、バランスを崩して激突・爆発してしまう。

 

崩壊する王宮

土台が崩壊した塔はやがてゆっくりと傾いて、海に向かって崩落していく。この時、アイス・ナイン化した大統領の遺体も海に落ちる。

 

アイス・ナイン化

一瞬にしてアイス・ナイン化する、全世界の海・川・湖、そして大地(水分を含んでいるので)と、アイス・ナインに触れてしまった人々。こうして世界が終末を迎える。

 

世界の終わり

奇跡的に生き残ったのは、主人公ジョーナを含む、ごくごく少数の人々であった。そしてごくわずかに生き残った人々と共に、物語はフィナーレに向かっていくのであった。 

 

作品の中の日本

 

「世界が終末をむかえた日」

主人公ジョーナは、広島に原爆が落とされたその日、人々がどのように過ごしていたかを本にまとめようと、取材を進めていくうちに、物語の舞台サン・ロレンゾ等に導かれていく。この本のタイトルが「世界が終末をむかえた日」である。

 

自由の敵

第二次大戦中、サン・ロレンゾ共和国は米軍に、百名の志願兵を送り出した。彼らは米兵と共に戦って全員戦死した。彼らは「民主主義に殉じた百人の戦士」と呼ばれ、サン・ロレンゾでは毎年「民主主義に殉じた百人の戦士の日」が祝われる。 記念行事のハイライトは、サン・ロレンゾ共和国戦闘機による、海上標的に対する機銃掃射である。錨で固定された大きなウキの上に、海上標的は乗っている。海上標的は人型に切り抜かれたボール紙で、スターリンカストロヒトラームッソリーニ毛沢東たちがいる。それから「なんとかいう日本人」の姿もある。誰でしょうね? ちなみに、海上標的を観察するのに主人公たちが使う双眼鏡は、日本製。

 

感想

アイス・ナインは氷なので、溶かせば元の水に戻り、飲用することができます。凍った物質はそのまま保存されますので、アイス・ナインと化した動物や植物は、解凍すればいつでも新鮮な状態で食用することが可能です。

世界はアイス・ナイン化して滅んでしまいましたが、生き残った人たちの暮らしはそんなに悲惨でもなさそうです。ここからの文明再生の物語も、またありえるのでしょうか。それは読者に委ねられているようです。