【あらすじ】『敵の星』ポール・アンダースン【ヒューゴー賞 1959年】
[評価 = A級]
あらすじ
宇宙船サザン・クロス号
宇宙船サザン・クロス号は、数世紀も前の地球人が打ち上げた宇宙船です。推進エネルギーには反作用物質を使用しますが、このエネルギーは大して消費しません。打ち上げ後しばらく推進を続けて、その後目的地に到達するための細かな方向調整を完了すると、後は「自由落下」を続けるだけになり、エネルギーを使用する必要はなくなるのです。
このようにして宇宙船サザン・クロス号は、目的地に向かって四半世紀もの間航行を続けているのです。
物質転送装置
サザン・クロス号が自由落下軌道を静かに落下し続ける間に、地球人類は既に十世代目となっています。
サザン・クロス号には物質転送装置が搭載されています。物質転送装置は、ゲルマニウムを材料とするアンテナを介して、人類の植民星に設けられた拠点との間で、物質の通信、つまり転送を行います。
この転送装置を使用して、乗組員が地球や各地の植民星から定期的に送り込まれてきます。彼らは3ヶ月程度サザンクロス号で勤務した後、また物質転送装置で出身星に復役して行くのです。
燃え尽きた太陽を発見
サザンクロス号は、自由落下軌道から少し外れたところで大変珍しい、科学研究対象として非常に貴重なものを発見します。完全に燃え尽きすっかり冷え切って、黒色矮星となった太陽です。
制御不能に陥るサザン・クロス号
クルー達は、この燃え尽きた太陽に立ち寄って研究データを収集することにします。
しかしこの星に近づいたサザンクロス号は、黒色矮星の影響で制御不能状態に陥ってしまいます。
緊急事態はなんとか脱しますが、物質転送装置のアンテナを破損してしまいます。物質転送装置が機能しなければ、乗組員は地球に戻れませんし、食料の転送を受け取ることができないため餓死を迎えることになってしまいます。
そしてクライマックスへ
刻一刻と糧食が尽きていく船内。彼らは地球に生還することができるのでしょうか…?
作品の中の日本
セイイチ・ナカムラ
日本人です。宇宙船サザン・クロス号の今回のクルー・チームに、船のパイロットとして参加しています。パイロットとしての腕前は超一流です。
また柔道の達人でもあります。数学の知識を柔道に応用することができ、力場(フォース・フィールド)を心の中に三次元視覚化し、また人間の運動量を微分量として計算しながら戦うため、畳の上では無敵です。
損傷した物質転送装置の修復のために「燃え尽きた太陽」への着陸がどうしても必要と悟ったとき、特攻精神でサザン・クロス号を「燃え尽きた太陽」に不時着させます。
この着陸でコクピットはめちゃくちゃに破壊され、セイイチは自らの命を犠牲にします。
感想
計算尺が50年代っぽい
複雑な科学計算を行う際、クルーが計算尺を駆使するのが、50年代らしくて興味深いです。コンピュータの「コ」の字も出て来ません。
計算尺は50年代の他の作品にも登場しますね。まだこの時代はコンピュータが実用化されてなかったんでしょうか。
コンピュータ無しで、宇宙船って飛ばせるもんなんでしょうか…。
無線無し、コンピュータも無しの宇宙旅行
物質転送装置はあり、船と地球(やその他の植民星)との間で一瞬にクルーを往復させることができるわけですが、無線通信手段は一切無いという不思議。
クルーたちは次々に命を落としていくわけですが、連絡の取れない地球に残された遺族たちの後日譚が切ないです。
ラストの物質転送装置トラブル…まさかの蝿男パターン?
修理して治ったかに思えた物質転送装置がまさかの動作をしてしまい…。
こう書くと「蝿男かな?」と思われると思いますが、全く違います。
伏線もほとんど無く、予想もつかない驚くべき結果が待ち受けています。
↓応援クリックお願いします