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ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『中継ステーション』クリフォード・D・シマック【ヒューゴー賞 1964年】

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クリフォード・D・シマックの1964ヒューゴー賞受賞作『中継ステーション』の、あらすじと感想です。

 

[評価 = S級]

 

 

あらすじ

推定年齢百数十歳。謎の男イーノック

主人公イーノックは、若かりし頃南北戦争に従軍したこともある、1840年生まれの、19世紀の男だ。現代では百数十歳になるはずだが、外見は20代の終わりくらいにしか見えない。

彼は両親が建てた家に今も静かに暮らしている。ウィスコンシン週の広大な山間部と丘陵地帯には数少ない人々が点在して暮らしているだけで、イーノックに干渉したり詮索するものはいない。

距離的に最も近い世帯は、卑しい山師のハンク一家だが、その家もイーノックの暮らす丘からかなり歩いて、深い谷の斜面を河まではるばると降りて行かなければならないほど、離れている。

 

イーノックを監視する、CIAのルイス

数年前からイーノックに目をつけ、監視を続けている者がいる。ルイスである。彼は薬用人参のハンターを装っているが、実態はCIAである。

 

冷戦と核戦争の脅威

ウィスコンシンの広大な山間部で、人々は静かな暮らしを営んでいる。しかし現代の世界では、東西両陣営の対立が先鋭化しており、核戦争勃発の危機が目前にまで迫っている。両陣営首脳たちによる平和会談が近く予定されているが、おそらく会談は決裂し、平和ではなく戦争の引き金を引くきっかけとなるだろう。

 

実は銀河系宇宙の中継ステーションの管理人

イーノックの家の中は、銀河系宇宙の中継ステーションに改造されている。イーノックは銀河本部の職員である宇宙人ユリシーズに見出され、中継ステーションの管理人を任されているのだ。

 

中継ステーションの仕組み

銀河系内の優れた文明を持つ星人たちは、銀河同盟を形成している。銀河系内の星々の間の移動には星間移動システムが使用される。

この星間移動システムの推進力は、一瞬だけに注目すれば銀河系の端から端まで瞬間移動できるほどである。しかし実際は、宇宙空間の塵やガスの濃度その他の要因で、この推進力はすぐに衰えてしまう。

宇宙空間にはそのような星域が数多くあるため、これらを迂回して銀河系内を結ぶために、数千もの中継ステーションが設置されているのである。

 

スパイラルアームに位置する地球

イーノックが管理するステーションもその一つである。イーノックの中継ステーションは、銀河系の外縁・辺境である「スパイラルアーム」と呼ばれる部分に位置する地球に設置されているという点で、非常に異色である。

野蛮で銀河同盟に所属できる文明レベルに達していない地球にステーションを設置するのは、銀河本部の中でも星人間でかなりの議論になったのであった。

 

中継ステーションの不思議

ステーションは宇宙人の技術者たちによって建設されたため、不思議な力を帯びている。

例えば、外部から破壊することは不可能である。ドアを斧で叩き破ろうとしても、全く目に見えない特殊なコーティングが施されているかのようにスルスルと滑ってしまい、かすることさえできない。

またステーション内部では地球時間が流れておらず、内部にいる限りイーノックは歳をとることが無い。ただし森を散歩したり、郵便物を郵便屋ウィンズロウから受け取ったりするために外に出ると、出ている時間だけは歳をとる。

 

郵便屋ウィンズロウ

イーノックと交わることのある人間は、二人しかいない。一人は郵便屋ウィンズロウだ。彼は定期購読している新聞や雑誌だけでなく、イーノックから頼まれた食料品などまで町で買って届けてくれる、親切な男である。ウィンズロウはイーノックに友情を感じているため、イーノックが全く歳を取らないことについても一切干渉してこない。

 

聾唖の女性ルーシー

もう一人の人間は、若く美しいが聾唖の娘ルーシーである。彼女は山師ハンクの娘であるが、まるで妖精のような人である。町の養護学校への進学や手話の学習等を全て拒否し、森の中を妖精のように自由に歩き回って毎日を過ごしている。

不思議な力を持ち、イーノックの目撃したところでは、森の泉の近くで、美しい蝶の折れた羽根を癒し、再び飛び立てるようにしてやったことがあるようだ。

 

ルーシーを匿うイーノック

ルーシーは、捕らえたアライグマを虐待する父ハンクと弟からアライグマを逃がそうとして、ハンクと弟を身動きできない状態にする。「親に呪いをかけた」と激怒するハンクに鞭で打たれ、背中から血を流しながら逃げてきたルーシーを、イーノックはステーションに匿ってしまう。

ルーシーを探して追ってきたハンクをイーノックは追い払うが、このことでハンクはイーノックに憎しみを抱き、復讐の機会を求めるようになる。

墓を暴いてしまう、CIAのルイス

イーノックの監視と身辺調査を行うCIAのルイスは、ある日イーノックの両親が葬られている墓地に、両親の墓と並んで第三の墓があることに気づく。墓石に刻まれた、未知の言語の墓碑(実はヴェガ星の言語)。

墓を掘り返し謎の遺体(実はヴェガ星人)を見つけ、ルイスはこれをワシントンに送ってしまう。このことが地球の命運を分ける行為になってしまう。

 

閉鎖を余儀なくされる、地球の中継ステーション

イーノックは、ステーションの管理人をしながら、銀河の旅人たちとできる限り交流し、その文明や技術を学ぼうと努めてきた。

しかし、ヴェガ星人の墓が掘り出され遺体が持ち出されたことが銀河本部で大問題となり、地球のステーションは閉鎖を余儀なくされる。

 

タリスマン

宇宙には、神秘的な全知全能の知恵が存在することがわかっている。この知恵と交感するために、ある神秘家が開発したものがタリスマンである。

タリスマンは、ふさわしい感応者が使用すると、この知恵と交感し、偉大なる平和・調和をタリスマンの周囲にも分け与えることができる。

一万年前タリスマンを開発した神秘家がなんの情報も残さなかったため、タリスマンは銀河系に一個しかない。 このタリスマンが数年前から盗み出されて行方不明になっている。ヴェガ星人の遺体の件が大問題化してしまったのも、タリスマンが不在なことと実は無関係ではい。

 

ヴェガ星人の遺体返却と、ハンクの襲撃と、宇宙からの訪問者

ある夜、全ての出来事が同時に起きる。

CIAのルイスは遺体の返却に同意し、ある日の夜イーノックの自宅まで返却に来ようとする。

その夜ハンクは、町の居酒屋でならず者たちに、イーノックは悪魔で娘をさらったと言いふらし、ならずものたちの一団を率いてイーノックの自宅の襲撃に向かう。

更にその夜、転送装置を緊急使用して、正体不明のネズミ型宇宙人が地球に到着する。中継ステーションを飛び出した宇宙人を、追うルーシー…。

 

そしてクライマックスへ

ルイスの遺体返却により、中継ステーションの存続はどうなるのか。ハンクとならず者集団の襲撃に、イーノックは絶えることができるのか。転送装置で突如やってきた宇宙人の正体は?タリスマンと関係があるのか?ルーシーは何故この宇宙人を追って行ったのか?

全てが同時に収束するラストエンドから、目が離せない…!

 

未来技術

クリフォード・D・シマックの1964ヒューゴー賞受賞作『中継ステーション』に登場する未来技術です。

 

実体化装置

中継ステーションに設置される。銀河の旅人は、中継されてこの装置の中に実体化されることにより到着する。

なお中継ステーションには、緊急用実体化装置も併設されている。銀河本部の職員の訪問や、緊急事態の時に使用される。中継ステーションでの操作は不可能。 

 

ミザル・システム

ミザル星の数学者の統計方法。イーノックはこれをベースに地球運命チャートを作成した。

様々なファクターを考慮に入れて、地球の運命を判断することができる。出生率、全人口、死亡率、通貨、生活費、礼拝場所への出席率、医療の進歩、技術の進化、産業指数、労働市場、世界貿易、などなど。

 

感応者

タリスマンを携えて、星から星へと永遠に旅をする。訪問先の住人は、感応者を通じて宇宙の超自然力とコンタクトできる。

 

超自然力

宇宙全体に溢れている力。人類には未知の、精神的なエネルギー。宇宙をつくりあげている時間・空間・重力と同じように存在する、超自然の力。人類が漠然と感知して信仰の対象にしてきたものの実態。

 

愚鈍化

凶暴で野蛮な星人に対して、銀河同盟によってときに行使される施策。星人の知能と文明レベルを大幅に引き下げて石器時代に退行させ、核兵器や航空機などの近代兵器を使用も開発もできないようにさせる。

物語の中では、CIAのルイスがヴェガ星人の墓を暴いて遺体を研究所に送ってしまったことが地球の野蛮性として大問題になり、中継ステーションが閉鎖されることになった際、地球を核戦争から救う最後の手段として検討される。

 

アルファード星系

妖精を創り出す技術と、球形ピラミッドをイーノックにくれた宇宙人の出身星系。

この技術を用いてイーノックは、理想の女性像を具現化した女性の友人と、理想の男性像を具現化した男性の友人を作り出し、時々語らっては孤独な生活の慰めとしていた。しかし彼らは実体ではなく、お互いに触れ合うことはできない。

 

球形ピラミッド

幻影を実体化し、妖精を実在のものとして定着させる装置。イーノックはこの装置の使い方がどうしてもわからなかったが、ルーシーが触るとあっさり作動を開始した。しかしイーノックの友人たちは、イーノックの記憶とアルファード星人の妖精作成技術によってできたものにすぎない、自分たちの虚しい存在が実体化することを良しとせず、この装置によって生を受けることを選ばず、消えることを選ぶ。

 

感想

ファンタジーとSFが混交したフュージョン作品ですね。

ルーシーの癒す力、タリスマンと感応する能力、これらはファンタジーです。 一方、イーノックが管理する中継ステーションのネットワークで構築された、銀河系を網羅する瞬間移動システムは、こちらはSFですね。

SF作品への賞というイメージが強いヒューゴー賞ですが、実際はSF作品とファンタジー作品の両方を対象とした賞です。要するにSFとファンタジーはもともと読者層が被っているわけで、このようなフュージョン作品がときに生み出されるのも頷けます。

どちらのジャンルも大好きで、両方が混じった作品でも全然気にならない読者(大抵の読者さんがそうだと思います)には、大変楽しめる作品かと思います。

ただし中には、SF作品世界の全てはあくまで仮想科学で構築されていなければならないと考える読者さんもいらっしゃることと思います。仮想科学で構築しきれない部分を都合よくファンタジーで埋めるのは中途半端な仕事…そうですね、そういう考えもあるかもしれません。それはそれとして、楽しめそうなら、「中継ステーション」是非読んでみてください。

 

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