【あらすじ】『宇宙の戦士』ロバート・ハインライン【ヒューゴー賞 1960年】
映画『スターシップ・トゥルーパーズ』原作、ロバート・ハインラインの1960年ヒューゴー賞受賞作『宇宙の戦士』の書評です。
[評価 = S級]
あらすじ
地球人の宇宙進出と、異星人との接触・対立
地球人は、太陽系を出て他星系に進出するようになっていました。人口は増え続けるため、人類は宇宙へ拡張していくほか生き続ける方法が無いのです。
こうなると避けられなくなってくるのが、同様に宇宙空間に進出している、異星人との接触・対立です。
地球人が先々で戦っている異星人は「バグ」と呼ばれています。姿はおぞましい蜘蛛のようですが、その組織はアリに非常に近いです。
地表に出て攻撃してくるのは兵隊バグのみです。兵隊バグには意思も知能もありません。しかし、地下に潜んで兵隊バグを遠隔コントロールしている「頭脳バグ」とも呼ばれる「王族バグ」たちの知能は高く、宇宙船を建造して宇宙空間に進出し、コロニーを増やしつつあります。
バグとの戦いは全面戦争へ
やがてバグたちは地球にも攻撃を行うようになります。大都市ブエノスアイレスが攻撃により地上から一掃されたころから、異星人との戦いは全面戦争に突入していきます。
主人公ジョニー、地球連邦軍に志願入隊
主人公ジョニーは、地球連邦軍に志願兵として入隊し、機動歩兵部隊に配属されます。
キャンプ・カリーでの地獄のシゴキ
入隊したジョニーは、訓練のため北方の大草原にあるキャンプ・カリーに送られます。ここでジョニーたち2千名の新兵たちは、鬼軍曹ズィムたちから徹底的にシゴキぬかれます。
訓練の厳しさは、ジョニーの同期2,009名のうち、キャンプ終了者はわずか187名、死亡者は14名という結果からよくわかります。
一時は除隊さえ決心したジョニーですが、やがて仲間がキャンプ・カリー出身者あれば何があっても大丈夫だと思うほど、この新兵訓練から自信を与えられ、またキャンプ・カリーとその出身者に誇りを持つようになっていきます。
パワードスーツ
機動歩兵の装備の中心は、パワードスーツです。パワードスーツは、機動歩兵を強靭な装甲で覆い、敵の攻撃から守ります。パワードスーツは、銃、火炎放射器、原爆ロケットランチャーを装備しており、凄まじい敵殺傷能力・敵施設破壊能力をもつ。しかしパワードスーツの真骨頂は、その行動能力にある。いたる所に取り付けられたジェット推進装置の力で、パワードスーツを着用した機動歩兵は、高高度長距離ジャンプを連続しながらの高速長距離移動と三次元的な戦闘が可能になるのです。
新兵ジョニー、戦闘開始!
パワードスーツに身を包んだ新兵ジョニーはカプセル(人間魚雷「回天」みたいなもの)に乗り込み、宇宙船の発射管から発射され、敵陣のまっただ中に降下します。
そして始まるバトル・バトル・バトル!ジョニーは生き残ることができるでしょうか。人類とバグとの戦い、最終的な勝利者になるのはどちらでしょうか。
未来技術
作品に登場する、SF的な未来の技術をご紹介します。
ネオドッグ
犬を人工的に変異させた軍用犬。犬の六倍の知能を持ちます。喋ることができます。ただし口の形上、b, m, p, v の音が発音できません。
人間だったら愚鈍に過ぎませんが、軍用犬としては超優秀(人の言葉が理解できて、簡単な内容であれば喋ることもできる犬を想像してくださいーすごく優秀な軍用犬になるでしょう?)。
パワード・スーツ
機動歩兵の最も重要な装備。詳しくはあらすじをお読みになってください。
名言集
作品中の、名言の数々をご紹介します。
「暴力は何も解決しない」は歴史的にみて間違っている
〜
「暴力は何も解決しない」などという、歴史的に見て間違っている、しかも不道徳極まりない主張」
「暴力は、他のどんな要素と比べても、より多くの歴史上の問題に決着をつけてきた…それに反する意見は最悪の希望的観測にすぎない」
〜
「私の母は暴力では何も解決しないと言っています」という、女子生徒の発言に対する、ハイスクールの道徳科学担当デュボア先生の発言。
戦争とはある目的を達成するための制御された暴力だ
〜
状況によっては、敵の都市を水爆で攻撃することが、(叱るために)赤ん坊を斧で殴るのと同じくらい愚かな行為になることもある。戦闘とは単なる暴力と殺戮ではない。戦争とはある目的を達成するための制御された暴力だ。
〜
犯罪者には苦痛をもたらさなければならない
〜
裁判官は常に慈悲深くあるべきだが、その裁定は犯罪者に苦痛をもたらさなければならない。さもなければ罰がないのと同じことになってしまう。
〜
体罰から発展して語られた、刑罰に関するデュボア先生の発言。
攻撃せずに防御するだけでは戦争には勝てない
〜
攻撃せずに防御するだけでは戦争には勝てない。どこであれ「防衛省」が戦争に勝ったことは一度もないのだ。
〜
日本は「防衛省」が国防を担当しています…。耳が痛いです。
部分よりも全体の方が重要である
〜
市民であるということは、一つの姿勢であり、精神の状態であり、心から確信することである…部分よりも全体の方が重要であると…。部分は自らを犠牲にして全体を生かすことを謙虚に誇るべきであると。
〜
デュボア先生の市民論。
作品の中の日本
作品の中で描かれる日本をご紹介します。
スズミ
主人公ジョニーとキャンプ・カリー同期になる、機動歩兵志願者。日系人。小柄な若者。柔道の達人。
柔道の訓練で、キャンプ・カリーの指導教官ズィム軍曹を巴投げで投げ飛ばす。投げられたズイムはスズミに「バンザイ!」と叫び、スズミは「アリガトウ」と笑みを返します。
感想
実写映画「スターシップ・トゥルーパーズ」
小説「宇宙の戦士」は、実写映画「スターシップ・トゥルーパーズ」(ポール・バーホーベン監督、1997年)の原作です。
実写映画版は、DVDをずっと前から持ってまして、子どもが気に入っていたため何十回も見ていました。
実写映画版は悪く言えばグロいB級娯楽作品です(ただし非常に面白い)。エロもあります。一方原作は非常に真面目な、滾る熱い小説で、実写映画版のB級的なエログロ要素一切無しです。
映画では、政府の戦争プロパガンダに釣られた志願兵たちは、過酷な戦場に容赦無く投入されて、バグにポイポイ無慈悲に殺されて、どんどん入れ替わっていきます。映画を見た大抵の人は、政府のプロパガンダを信じるのは実に愚かなことで必ず騙されて使い捨てにされる、戦争に終わりはなく兵士として戦うのは虚しいことだ、という思いを持つのではないでしょうか。
原作は真逆で、地獄の新兵訓練キャンプを乗り越えた者だけが成ることを許されるホンモノの兵士と、そのような漢たちの鋼の組織である軍へのとてつもないリスペクトに満ち満ちています。
原作に登場する兵士達は、強く、優秀で、勇敢で、ストイックで、勤勉です。上官は部下を父親のように気にかけています。兵士は仲間を戦場で最後まで見捨てしません。彼らは将軍から士官から一兵卒まで、皆お互いに命を預け合える強い絆で結ばれています。全員が自分の部隊を誇りに思っており、そのような部隊に所属していることを心から喜んでいます。
あわせて読みたいー「大宇宙の少年」
『宇宙の戦士』は本質的にはジュブナイルと言えます。主人公の、ハイスクールを卒業したばかりの少年ジョニーが過酷な新兵訓練キャンプで鍛え上げられ、実戦に投入され、やがて真の漢に成長していく過程がテーマとなっています。
もう一つの重要なテーマはパワードスーツです。作品の中ではパワードスーツの技術と装備が詳細にリアルに語り尽くされます。兵士たちはこのパワードスーツで、跳躍し、射撃し、爆破し、燃やし、敵軍施設を破壊し、バグを倒しまくり、宇宙で無双の限りを尽くします。
上記の二点が、ロバート・ハインラインの前作「大宇宙の少年」に非常に似た味わいを、本作品にもたらしています。「大宇宙の少年」のもう一人の主人公は少年キップの宇宙服でしたが、「宇宙の戦士」ではもう一人の主人公はパワードスーツなのです。
ちなみにパワードスーツは、ガンダム的なものでは全くありません。「スターウォーズ」で帝国軍のトゥルーパーが着用している白い戦闘スーツの方が、イメージ的には近いです。
その他、実写映画版との相違点色々
- 新兵キャンプでの訓練が非常に重要なパートとなっている。ちょうど半分の頁が割かれている。
- パワードスーツは無双であり、兵隊バグよりも強い。
- 研究開発部門に配属される親友カールは、新兵募集のくだりにしか出てこない。後に戦死の知らせを聞くだけである。
- (実写映画版でのカールは、特殊能力将校として終盤で再登場し、捕獲された王族バグの心をテレパスで読み取るという役どころ)
- バグは宇宙船を建造する知能を有し、宇宙に進出して各星にコロニーを築いている。
- 機動歩兵部隊は全員男である。女性士官は宇宙船のみに勤務している。
- カルメンを巡って恋のライバルが登場したりしない。カルメンとは、中盤で一度会食の機会があるだけ。お互いにリスペクトする関係。
- 基本的に女性はほとんど登場しない。
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