【SSF】S級SF作品を探して

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア【ヒューゴー賞 1960年】

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カート・ヴォネガット・ジュニア
1960年ヒューゴー賞受賞作『タイタンの幼女』の書評です。 

 

[評価 = S級]

 

 

あらすじ

時空を翔ける人、ラムファード

宇宙空間には、「時間等曲率漏斗」と呼ばれる空間が存在すると言われています。この空間の中に入った者はあらゆる真理がわかるようになり、またこれまでに存在した全ての場所・全ての時に永遠に存在できるようになる、と言われています。

「時間等曲率漏斗」の一つは、地球と火星の間を動いていました。そのことが確認されたのは、名家の紳士ラムファードが私財を投じて製作した宇宙船に自ら乗船し、この空間に飛び込んだからでした。

この空間に飛び込んだのち、ラムファードは時と空間を翔ける人となります。

 

ラムファードとトラルファマドール星人サロの出会い

時と空間を翔ける人となったラムファードは、火星の衛星タイタンで、トラルファマドール星人サロと友人になります。サロは二十万年前、宇宙船の故障でタイタンに不時着しました。サロは修理部品を求める信号を母星に発信したのち、修理部品が救援チームによって届けられるのを待っているのです。救難信号は光速でしか進まず、またトラルファマドール星は十五万光年も離れているため、サロは修理部品が来るのをもう二十万年も待ち続けているのです。

 

火星軍を組織するラムファード

やがてラムファードは、サロからトラルファマドール星の進んだ技術を学び、UFOを開発し、また火星に軍事基地を建設します。軍事基地を完成したラムファードは、UFOで火星軍スパイを地球に繰り返し派遣し、地球人をスカウトしては火星に連れ帰り、火星軍を組織していきます。

 

傲慢な大富豪コンスタント、火星軍に志願する

もう一人の主人公コンスタントは、大富豪です。彼は地上で最もツキに恵まれた男で、彼の投資する株は必ず高騰し、彼に莫大な富をもたらすのです。

やがて彼の運が尽きる日が来て、彼は無一文に落ちぶれます。自暴自棄になったコンスタントは、火星軍スパイに勧誘されて火星軍中佐に志願し、UFOに乗船して火星に向かいます。

 

火星・地球戦争

やがて火星軍は、女や子どもも含めて一人残らず、地球総攻撃に出征します。ありとあらゆる国家が、地球総攻撃の対象です。

地球の各国政府は、ありったけの核ミサイルを発射して、大部分の火星軍UFOの撃墜に成功します。

やがて核ミサイルが全て尽きてしまうと、残りの火星軍UFOが地球に着陸し始めますが、UFOから降りて来た火星軍兵士はなぜか警察官程度の武器しか携行しておらず、地球人に瞬殺され、全滅してしまうのでした。

 

そしてクライマックスへ

火星軍全滅後に地球に現れたラムファードは、火星・地球戦争の真の目的を地球人に明らかにします。しかしラムファードはやがて、自分がトラルファマドール星人に操られていたことを理解するのでした…。

 

未来技術

作品に登場する、SF的な未来の技術をご紹介します。

 

磁力家具

この家具には脚はありません。磁力によって、適当な高さで浮かんでいます。テーブル、デスク、ソファ、カウンターなど、様々なタイプの磁力家具があります。

 

磁力文房具

磁力家具と同じ原理です。必要になった時いつでもすぐ手に取れるよう、空中に浮かんでいます。鉛筆やメモ用紙などの磁力文房具があります。

 

呼吸糧食

略称CRR。別名ヒョウロク玉。酸素補給薬。これを食べていると、酸素の無い火星でも、宇宙服と呼吸装置なしで生きることが可能です。シュリーマン呼吸法とセットで使用します。

  

UWTB

The Universal Will To Become。「そうなろうとする万有意志」。たくさんの宇宙を無から創り上げた力といわれます。サロや火星軍の宇宙船の推進力にも利用されています。地球には存在しない力です。

 

シュリーマン呼吸法

真空あるいは有害大気内で、ヘルメットや呼吸器具を用いずに、人間を生存させる技術です。要は呼吸を止めるということです。酸素は呼吸ではなく、ヒョウロク玉を食べることによって補給します。

 

作品の中の日本

作品の中で描かれる日本をご紹介します。

 

日の丸の国旗

火星・地球戦争の際に攻撃される予定の国の一つとして、日の丸の国旗が火星基地にはためいています。もちろん星条旗ソ連の国旗もその横に並んでいます。

 

柔術

火星軍でも兵士の訓練科目の一つとなっています。

 

ワタナベ・ワタル

ラムファード少年時代の、屋敷の庭師です。ラムファードのドイツ式三角ベースのチーム仲間でした。

 

感想 

作者であるカート・ヴォネガット・ジュニアは、アメリカを代表する現代文学作家の一人ですね。私の中では、日本でいう村上春樹みたいなイメージです。

 

正統派SF小説というよりは、ボルヘスガルシア・マルケスなどの南米の作家の作品のような、荒唐無稽で全く非日常的な設定の中で描かれる人間ドラマを楽しむ、文学作品だと思います。

 

主人公の一人であるコンスタントは、元は大富豪で傲慢で無責任な人物です。しかし火星で愛と友情を知り変容します。火星軍入隊後の手術で記憶を失いますが、自分が何者であるかを知ろうと不屈の努力を続けます。地球に帰った後自分の罪を知り、タイタンへの流刑を受け入れて旅立ちます。このコンスタントの変容の過程がとてもよく。私は当初コンスタントに反感、中盤からは同情や共感を覚えながら読み進みました。

 

流刑先のタイタンでは妻ビアトリス、息子クロノと、静かに余生を暮らしていきます。家族の間に愛はありませんが、妻ビアトリスとは彼女の死の直前に、息子クロノとはコンスタントが地球に戻る直前に、遂に心が通じ合います。家族との和解に一生かかってしまったけど、和解できてよかったなぁ…と、しみじみ思いました。

 

コンスタントは最後は地球に戻り、自分が殺してしまった親友が「お迎え」に来る幸せな夢を見ながら、雪の中で眠るように息を引き取ります。このシーンは映画ジェイコブズ・ラダーをちょっと思い出させ、本書をハッピーエンドの物語として締めくくってくれました。

 


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