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ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『黙示録3174年』ウォルター・ミラー【ヒューゴー賞 1960年】

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「黙示録3174年」


ウォルター・ミラー
1961年ヒューゴー賞受賞作『黙示録3174年』の、書評です。

 

[評価 = S級]

 

あらすじ

「火炎異変」或いは第三次世界大戦

二十一世紀の地球では遂に第三次世界大戦が勃発し、全面核戦争により地球上の全ての国家が破壊され尽くします。この最終戦争による世界の破滅は、文明の荒廃した後世では「火炎異変」と呼ばれ、半ば神話のような形で語り伝えられています。

 

文明の根絶

「火炎異変」後の世界は無政府状態となります。わずかに生き残った民衆は、この破壊の責任が原子力・核爆弾・ミサイル等の現代兵器を開発した科学者にあると考え、狂信的な集団となって学者・技術者・知識人を狩り出して虐殺し、また焚書を行って徹底的に知識を根絶やしにします。

生き残った少数の学者・技術者・知識人は潜伏し、組織を作って焚書を免れた書物を運び、埋めたり壁に塗り籠めたりして隠し、それらを狂信的な焚書坑儒が過ぎ去った後世に託そうとします。

しかしこの学者狩り・知識狩り・焚書は学者達の想像を超えて長期に渡り続きます。この激しい焚書坑儒の嵐が過ぎ去るには実に六世代に相当する時間が必要なのでした。この間、生き残ったもの達もほとんどはやがて捕らえられて処刑され、隠した書物も暴きだされて燃やし尽くされてしまいました。

 

聖リーボウィッツ修道院と「大記録」

この物語の主人公は一人の人間ではなく、ローマ・カトリック教会修道院である聖リーボウィッツ修道院です。修道院の名前になっているリーボウィッツは電子機器の設計技術者で、焚書坑儒の嵐が吹き荒れる時代に、潜伏して書物を隠し保護する活動に従事していましたた。しかしリーボウィッツは書物運搬中に捕らえられ、書物は焼かれ、またリーボウィッツ本人も絞首刑になったと言い伝えられています。

聖リーボウィッツ修道院の修道僧達は、堅固な要塞として修道院を築き上げ、ごく僅かに残った書物の切れ端をまとめたものを「大記録」と呼び、6世紀に渡って写本を通じて大切に受け継いできたのでした。

大記録の内容は物理の教科書の一部であったり、何かの装置の設計図面の一部だったりしますが、6世紀を経た今、 修道僧達にも全く意味不明のものとなっているのでした。

 

タデオ博士とルネッサンス

更に6世紀が経過し、中世以前の文明レベルのこの世界は、やがて残虐な小王国が群雄割拠する時代を迎えます。アメリカ大陸で最も勢いに乗る王国は、残虐な暴君ハネガン王子の統治する小王国テクサーカナです。この王国に、一人の大天才が現れます。タデオ博士です。

タデオ博士を中心としてルネッサンスが始まり、これらの優秀な学者グループは、やがて聖リーボウィッツ修道院の「大記録」に注目し始めます。

 

そしてクライマックスへ

荒廃した文明は復興を遂げることができるのでしょうか。その時人類は「火炎異変」から学び、今度こそ平和な世界を築き上げることができるのでしょうか。

 

感想

1960年のヒューゴー賞受賞作品には、この「黙示録3174年」にも「ヴィーナス・プラスX」という作品があります。どちらも冷戦下での核戦争の恐怖を濃厚に反映した物語となっています。この時代のムードだったのでしょうか。

 

「黙示録3174年」では、最初の核戦争で完全に失われた文明が1,200年もかけて復興する歴史と、復興した文明が結局再び核戦争に突入していく様、核攻撃を受けた町の凄惨な被害が大変なリアリティを持って記述されます。

 

この作品の異色な点は、3174年の最終戦争が北米大国とアジアの覇権国家の戦争として描かれていることですね。

 

読んでいてなんとなく中国を連想しますが、このアジアの覇権国家の領土的広がりは中東にまで達しているようです。

 

北米大国による月面軍事基地破壊に対して、北米大国の人口数百万の首都への核爆弾投下で報復する情け容赦の無さや理性の欠如も、戦狼路線を取る今日の中国ならさもありなんと感じます。

 

1960年に、このような二大勢力による最終戦争を想定している点、今日の中国の戦狼路線の危険さを彷彿させるようなアジア覇権国家の報復攻撃の詳細に、先見の明を感じます。

 


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