【あらすじ】『悪魔の星』ジェイムズ・ブリッシュ【ヒューゴー賞 1959年】
[評価 = A級]
あらすじ
惑星リチア
惑星リチアは、地球から5光年離れた地球型の惑星で、リチア人の文明が繁栄しています。
リチア人は身長が3.6mほどもある、カンガルーのような立ち姿の、二足歩行のトカゲ型爬虫類です。高度な知能を持ち、それなりに高い科学技術を発展させています。
ルチアの自然は非常に安定しており、地球の氷河期のような気象変動をこれまで一度も経験したことがありません。
気候は温順で長期に渡って安定しており、食料に不足することはありません。
リチア人文明
地上には一つのリチア人が一つのリチア語で暮らしています。リチア人は高度に道徳的です。道徳を守ることは当然の自然なことであるため、リチアには一人の落伍者も犯罪者もいません。リチア人には欲望が無く、このため報酬という概念もありません。
ルイス神父
主人公ルイスは、地球から派遣されたリチア調査団員の一人です。彼は生物学者であり、医師で、またイエズス会の神父でもあります。
神父ルイスにとって、リチアの自然はエデンの園を彷彿とさせるものであり、リチア人は楽園を追放されなかったアダムとイブのように思えます。
神父ルイスは、リチアを地球と接触・交流させるべきでは無いと考え、リチアを永遠に隔離するすることをリチア調査結果として国連に報告・提案することを決意します。
水爆原料の宝庫ルチア
ルチア調査団員には他にも3名の学者たちがいます。
その一人で物理学者のクリーヴァは、リチアにはペダマイトが無尽蔵と言ってよいほど豊富に埋蔵されていることを発見します。ペダマイトから取り出すことができるリチウムは、水爆の原料になります。
クリーヴァは、いずれ地球人が版図を更に広げていつか敵対的な星人に遭遇する時のために、ルチアを軍事拠点として占領・封鎖し、水爆製造・貯蔵基地とすることを、リチア調査結果として国連に報告・提案することを決意します。
そしてクライマックスへ
ルチア文明は、地球人の野蛮なエゴのために滅びてしまうのでしょうか…。またルイス神父は最後までルチア人の味方であり続けることができるのでしょうか…。
名言集
フランス人というやつは、完全なアクセントでしゃべらないことばはぜんぜん通じないのだと、相手に思い知らせようとする
〜
いまでも忘れないが、タクシーの運転手は、コンチネンタル・ホテルへやってくれという彼の要求を、彼が紙切れに書いて見せるまでわからないふりをしたのだった。それを見せると、そいつはやっと急にわかったふりをして、「ああ、そう。コン・ティ・ネン・タルね?」とタルに力をこめていう。フランスではどこへ行ってもこんな態度に出くわした。フランス人というやつは、完全なアクセントでしゃべらないことばはぜんぜん通じないのだと、相手に思い知らせようとする。
〜
南米出身の主人公ルイス神父が、十五年前に行ったパリを回想しながら行う独白。対照的に、イタリア人は下手なイタリア語でも理解しようと努力してくれるとのこと。
フランス人ってイヤミなところがあるんですね〜。名言とはちょっと違うのですが、大変興味深いので紹介しました。
作品の中の日本
リウ・メイド
日本人女性科学者です。
リチア調査団員の一人、科学者マイケルスに求愛され結婚します。リチア人シュテカの息子エグトヴェルチを預かり、彼が幼生の頃から地球で養育します。ち
なみにリチア人は卵生で、孵化直後はウナギに似た魚類の姿をしています。
子供は海で成長し、やがて肺魚となります。その後胸ビレが発達して腕状になって来ると、両性類として陸上に上がり、ジャングルを目指します。ジャングルの中で成長すると爬虫類となります。やがて直立歩行するようになり、最終的に街に戻ってきて、リチア人として文明社会の一員となるのです。
人類の進化みたいな成長過程ですね。
さて日本人女性科学者リウ・メイドですが、「神秘的な面と包み込むような穏やかさを持つ魅力的な女性」といかにも日本人女性らしく表現されています。
年齢については「ゲイシャになるのにちょうど良い頃合い」の若い女性と描写されています。
中国人女性を想像させる名前といい、欧米人の日本人女性イメージのデタラメっぷりがよくわかりますね。
感想
難解な神学的考察
実は「悪魔の星」、先日紹介した「ビッグ・タイム」に負けず劣らずの、難解なSF作品です。
ここまで読まれてお気づきになった方もいらっしゃると思いますが、管理人はこの小説のタイトルが「悪魔の星」である理由を説明できていません。
主人公のルイスはイエズス会の神父です。「悪魔の星」とは、ルチア調査団の一員であるルイスが、最終的に調査結果をそう結論づけるわけです。
ユートピアのように平和で道徳的なルチアが「悪魔の星」と結論づけられるに至るまでの深い神学的考察を、管理人は書評に盛り込む力がありませんでした。
博覧強記の作家ジェームズ・ブリッシュ
あらゆる文章に著者ジェームズ・ブリッシュの溢れるばかりの科学知識が縦横無尽に散りばめられており、それがこの作品の文体にスタイリッシュな味わいを与えています。
エヴァンゲリオンの「使徒」とか「死海文書」といったワードの使いこなし方に似ていますね。
こんな感じのワードが、巧みに使いこなされて小説を構成しています↓
「鉄バクテリア」
「ピエゾ電気」
「オッカムのかみそり」
「オーバードライブ」
「神知学」
「ミスラ信仰」
「エシーン教団」
「カントルの集合論」
「バークレー司教の論争」
「マニ教」
「ネルンスト発電機」
「ラマルクの進化説」
「超限数」
「妖鳥ハルプュイアイ」
「ディエス・イラエ ー 主の怒りの日」
かっこいいですよね。ちなみに本題とは直接関係なく使用されているので、意味がわからなくてもストーリーを追う妨げにはなりません。ご安心ください。
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