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ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『死の世界1』ハリー・ハリソン【ヒューゴー賞 1961年】

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ハリー・ハリソン
1961年ヒューゴー賞受賞作『死の世界1』の、あらすじとレビューです。

 

[評価 = S級]

 

 

あらすじ

常勝ギャンブラー、ジェイソン

主人公ジェイソンは、惑星キャッシリアで活動する、超人的才能を持つ常勝ギャンブラーである。彼はイカサマ師ではない。彼は精神感応力という、一種の特殊能力の持ち主なのである。この能力を使用して他者の感情や思考を感じたり、逆に自分の感情や思考を他者に感じさせたり、勝負の行方に影響を及ぼすことができる。この能力は超能力ではない。人間であれば誰しも、多かれ少なかれ有する能力なのである。

彼はこの能力が秀でており、またこれを独自の鍛錬法によって大きく伸ばし、持って生まれたギャンブルの才能にこの能力を加えて活用しているのであった。彼のような超人ギャンブラーには、公営カジノが主要産業の一つとなっている惑星キャッシリアは格好の場所であった。

 

カークからの代理ギャンブルの依頼

ある日ジェイソンは、惑星ピラスから派遣されてきた男、カークの訪問を受ける。カークは三千万クレジットをジェイソンに提供し、これを公営カジノで百倍の三十億クレジットに増やして欲しいと依頼する。カークの目的がわからず最初は尻込みするジェイソンであったが、このデカイ仕事にギャンブラー魂に火をつけられたジェイソンは、最終的にこの依頼を引き受ける。

 

爆勝ちと逃走

 

持ち前の特殊能力と天才的な駆け引きで、胴元にレートを破格に引き上げさせることに成功し、そこからの脅威的な巻き返しで、見事に胴元から三十億クレジットを巻き上げるジェイソン。だがカジノの胴元も惑星キャッシリアの官僚も、ジェイソンの勝ち逃げを許さない。激しいカーチェイスと銃撃戦の末、銃を持って追跡してきた警察の目の前で、中立惑星ダークハンの航宙船に間一髪搭乗することに成功する。航宙船内は治外法権であるため、警察は立ち入ることができず、彼らは歯ぎしりして立ち去って行く。

 

惑星ピラスへ

カークはこの三十億クレジットで大量の武器・弾薬を買い付けて惑星ピラスに戻ろうとする。何故これほどの兵器が必要なのか。惑星ピラスは他の惑星と戦争中なのか。カークによると、ピラス人は惑星ピラスそのものと戦っているのだという。

カーク曰く、惑星ピラスは屈強な男が数日で悲鳴を上げて逃げ出しても全く恥ではない厳しい世界なのだという。興味をそそられたジェイソンは、三十億クレジットを稼ぎ出した功労者の権利を主張し、カークの反対を押し切って強引に惑星ピラスへ同行する。惑星ピラスへ航宙船を操縦するのは、若く魅力的な女性パイロット、メタだ。ピラス人である。

惑星ピラスには、人間が生活している都市は一つしかない。宇宙船到着後、都市中枢部への移動中、早速恐ろしい有刺翼鳥の襲撃を受ける一行。悲鳴をあげるジェイソンだが、それを蚊でも払い落とすように難なく撃ち落とすピラス人たちである。

惑星ピラスは地球の二倍の重力の世界である。重力2とは、要するに自分と同じ体重の人を肩に担いで運ぶのと同じ力が、歩くのに必要ということである。慣れないジェイソンには歩くこと自体がハードだ。

惑星ピラスではありとあらゆる生物が人間の敵だ。動物や鳥だけでなく昆虫や植物までが、致死性の猛毒や刃物のような爪や牙で、ありったけの敵意を剥き出しにして人間に襲いかかってくる。ここには人間にとって無害な生物は無い。

 

ピラス人

ピラス人たちは、物心がついた頃から、生き残るための徹底的なトレーニングを受ける。要はありとあらゆる有害な動物・鳥・昆虫・植物を、一瞬で識別して殲滅するトレーニングである。

ジェイソンは幼児向けトレーニング施設で半年に渡り恐ろしい訓練を受けるが、結局大人のピラス人同様に自由に出歩く許可を与えられるには至らず、外出時には自分の腰ほどの背丈しかない11歳の少年を護衛として付けられるのであった。

 

激しい戦闘

やがてジェイソンは実際の戦闘を目撃することになる。動植物たちの大規模な攻撃で都市の防衛戦の一角が破られたのだ。

この攻撃の成功には、根っこのお化けのような巨大植物型生物が貢献した。この植物型生物は防衛戦の外側からトンネルを掘って防衛戦内側に到達・侵入したのだ。この生物は地上に出現したのち焼夷弾火炎放射器で焼き払われて殲滅されたが、トンネルを通って凶暴な動物たちが多数侵入・攻撃してきた。一体は激しい戦闘地帯と化す。

しかし怯んだり臆するピラス人は おらず、女性であるメタでさえ激しい先頭に参加して戦っている。ジェイソンの目には、ピラス人たちがこの戦闘をむしろ楽しんでいるようにさえ見えた。

 

ピラスの歴史

人間が惑星ピラスに入植したのは300年前のことである。この都市を守るための戦いはそれ以来ずっと続いている。惑星ピラスには豊富な鉱物資源があるのだが、ピラスの都市人口は漸減しており、都市郊外には産業の衰退により廃墟となった倉庫群などがある。これらはピラス人たちがこの戦いに徐々に負けつつあることを示している。

 

解決に動き出すジェイソン

やがてジェイソンは、外星人の視点から解決策を探し求めるようになる。そして大きなヒントを突き止める。「グラッパー」と呼ばれ都市人には忌み嫌われている、ジャングルに暮らす森林人たちの存在だ。

グラッパーも元々は、300年前に入植してきた元祖ピラス人の子孫たちなのであった。どうしてか今は、都市人とグラッパーは対立し、それぞれ都市とジャングルに別れて生きている。

都市人とグラッパー達は必要最低限の交易を行なっている。決められた日に、都市人はトラックでジャングルの入り口に向かう。そこにはジャングルで取れた食料が置かれている。都市人は交換に電気・電子機器などを置く、という物々交換だ。この物々交換のトラックに同乗し、ジェイソンはジャングルに潜入してグラッパーに接触することに成功する。

 

そしてクライマックスへ

やがてグラッパーから重要な気づきを得たジェイソンは、問題の解決に向けて動き出す。ピラス人はこの果てしない死闘に終止符を打つことができるのか…!?

 

未来技術

ハリー・ハリスンの1961ヒューゴー賞受賞作『死の世界 1』に登場する、未来技術です。

 

飛び出し銃

ハンドガン(拳銃)。普段は腕に取り付けた皮袋の中に収まっている。袋の中には作用器があり、銃を握って引き金を引く時の右手首の腱の様相を記憶している。銃を握っているつもりで引き金を引く動作をすると、この作用器が反応し銃が手の内に飛び込んで来る。この間のタイムラグはほとんど無いため、銃を握っているつもりで引き金を引く動作をすると、その瞬間にはもう実際に弾丸が発射されている。

 

治療箱

分析器、注射針、薬などからなる、自動治療装置。負傷した部位や病んでいる部位に当てると、分析器が症状を分析して最善の薬品を選択し、注射針が出て薬品が体に注入される。携帯可能なコンパクトサイズ。野戦の必需品。

 

精神放射線方向探知機

 

他の人間や動物に影響を及ぼして操ることができるような強い思念波の、発信源を探知する装置。

 

感想

ヒューゴー賞2年連続受賞の快挙

ハリー・ハリソンは1961年、1962年と、2年連続でヒューゴー賞を受賞しています。

  • 1961年「死の世界 1
  • 1962年「殺意の惑星

受賞作のフォーマットが酷似

まぁ作者が一緒なので当然なのかもしれませんが、この2作品はビックリするくらいフォーマットが同じですね。以下に設定の共通点を書き出してみます。

 

主人公が精神感能力という、一種の超能力を備えている
  • 死の世界1」ジェイソン。卓越した精神感能力を活用して、常勝ギャンブラーとして荒稼ぎしていた。
  • 殺意の惑星」ブライオン。精神感能力で対戦相手の感情を読み取ることにより、国民的競技「二十種競技」のチャンピオンとなった。

 

凄腕の名バイプレーヤーにスカウトされて、異世界への冒険に旅立つ
  • 死の世界1」カーク。惑星ピラス。兵器買い付け資金を稼ぐために、ジェイソンに国家予算規模のギャンブルを委託する。
  • 「殺意の惑星」イージェル。惑星ディス。核戦争回避のために、二十種競技チャンピオンである超人ブライオンの協力を求める。

 

目的地の惑星への旅の途中、有能で若く美しい女性パートナーと出会う
  • 死の世界1」女性パイロット、メタ。惑星ピラスへの航宙船を操縦。
  • 殺意の惑星」女性生物学者リー。惑星ディスの謎を解くために同行する。

 

目的地の惑星の生物または住人は極めて攻撃的で、惑星を危機的な状況に陥れている
  • 死の世界1」惑星ピラスの生物たちは、謎の敵意を剥き出しにして人間に襲いかかってくる。入植者たちはこの果てしない戦いに敗北しつつある。
  • 殺意の惑星」支配者グループであるマグダー。近隣星ニーヨルドに対して、コバルト爆弾を搭載した跳躍空間ミサイル(ワープミサイル)を構え、ニーヨルドの降伏を要求している。先制攻撃もやむなしと考えるニーヨルド軍の航宙船に惑星を包囲され、先制核攻撃を受ける直前という状況下にある。

 

目的地の惑星の生物または住人たちの攻撃性の原因が全くわからない
  • 死の世界1」惑星ピラス。襲いかかってくるのが動物や植物なので、なぜそのような行動をとるのか不明。
  • 殺意の惑星」支配者グループであるマグダーには、感情が無く、死を全く恐れない。マグダーとはコミュニケーションというものが成立しないため、意図もわからないし説得も通じない。

 

問題を解決しようと働いている現地スタッフが成果を上げておらず、主人公が単独で解決行動に乗り出すようになる
  • 死の世界1」惑星ピラスの人々。現地の生物との果てしない戦いを続けるだけ。原因があるとか解決策があるという発想が皆無。
  • 殺意の惑星」ニーヨルド軍。マグダーが人間だと信じて疑わないため、真の問題と解決策に気づかない。

 

主人公が全ての謎を解き、共存が可能となる
  • 死の世界1」惑星ピラスの生物の攻撃性の謎が解かれ、人間と生物の共存が可能であることが証明される。
  • 殺意の惑星」マグダーの非人間性の謎が解かれ、ニーヨルド軍の科学技術により救済可能であることが証明される。

 

女性パートナーとの新たなる冒険への旅立ちで、物語が終わる
  • 死の世界1」ジェイソンは報酬で航宙船を買い、未開の惑星への旅にでる。女性パイロットのメタがパイロットを志願し、二人は新たなる冒険に旅立つ。シリーズの続編を乞うご期待!という感じで終わる。
  • 殺意の惑星」ブライオンと女性生物学者リーは、その功績を評価され、惑星間問題の解決を任務とする特殊作戦チームCRFのメンバーにスカウトされる。CRFの働きを待つ惑星は至る所にある。二人の次なる冒険の舞台となる惑星は?シリーズの続編を乞うご期待!という感じで終わる。

 

より面白いのはどっち?

両作品を同時に読んでいると、頭の中がごっちゃになります。どちらが面白いかと問われると、僅差で「死の世界1」でしょうか。ピラスの生物たちが入植者の基地を攻撃する様が、ハリー・ハリソンの凄い描写力によって、ハリウッド映画を見ているような大迫力で、読者の脳内にありありと映し出される点を高く評価したいです。

 

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