【SSF】S級SF作品を探して

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『ダブル・スター』ロバート・ハインライン【ヒューゴー賞 1956年】

[評価 = S級]

 

あらすじ

主人公、俳優ロレンゾ

主人公ロレンゾは盛りを過ぎた俳優です。ある日彼は最大野党「拡大派」の党首である大政治家ボンフォートの替え玉を務めるよう、極秘の依頼を受けます。

 

火星人

この時代、地球人は太陽系の各惑星に進出し、太陽系帝国を築き上げています。課題になっているのは、地球人ではなない別の知的生命体である火星人が独自の文明を築き上げている惑星、火星です。

 

野党「拡大派」

党首ボンフォート率いる野党「拡大派」は、火星人と友好関係を確立し、地球人の太陽系帝国の一員に迎え入れ、地球人と完全に対等な権利を保証しようとしています。

 

「入巣の儀」

友好関係を確立するために、ボンフォートは火星人の最有力貴族ククカー族の「入巣の儀」の約束を取り付けるところまでこぎつけました。「入巣の儀」は、要は盃を交わしてククカー族の家族になる儀式です。

 

与党「行動派」による、ボンフォート誘拐・監禁

一方の与党「行動派」は、火星を武力で太陽系帝国に併合しようと画策しています。

このことはまだ極秘ですが、武力併合の口実を求める「行動派」は、「拡大派」の党首ボンフォートを誘拐・監禁してしまいました。

火星人は礼法、すなわち義理と義務を命よりも重要なものとしています。もしボンフォートが「入巣の儀」に現れなければ、火星に進出して暮らしている地球人は、無礼の報いとして皆殺しにされるでしょう。行動派はそれを口実に、火星人を皆殺しにして太陽系帝国に武力併合することを狙っているのです。

 

そしてクライマックスへ

ロレンゾは何としても替え玉作戦に成功し、「入巣の儀」をつつがなく終えなければなりません。地球人と火星人の命を救うために…。

 

名言集

"ショーは続けなくてはならぬ"

"ショーは続けなくてはならぬ"とは、最も古いショー・ビジネスの基本教義だ…それは、やると約束したから。まえには観客がいるからだ。客は金を出している。

 ボンフォートの替え玉として、即興の政治演説を迫られたロレンゾの独白。ロレンゾは、替え玉演技のために研究しつくしたボンフォートならどんな演説を行うかを考え抜き、即興の政治演説にただ一人で挑みます。

 

猫を拾うことの困った点は、決まって子猫が生まれることだ

親切と同情から行った手助けの結果、更に厄介な手助けが必要になるという意味。

 

「汚いゲームというものは存在しません。ただ、汚いプレイヤーに時おり出会うことがあるのです」

「政治とは汚いゲームなんだな!」

「いいえ」政治補佐クリフトンはきっぱりといった。

「汚いゲームというものは存在しません。ただ、汚いプレイヤーに時おり出会うことがあるのです」

 政治は決して汚いゲームではありません。

 

人間、政治にかかわるまでは、生きたことにはなりゃしない

「人間、政治にかかわるまでは、生きたことにはなりゃしない。この世界は荒っぽく、時には汚く、いつだって重労働と退屈な細部の連続ではある。それでも、これこそ大人のスポーツだ。それ以外はみな子供の遊戯さ」

政治は大人のスポーツだそうです。

 

船が沈没するときには…気をつけの姿勢で立っているのが自分への義務…だ

「もはや絶体絶命だった ー だが船が沈没するときにはせめて、かつてバーケンヘッドで演習中に沈んでいった者たちのように、気をつけの姿勢で立っているのが自分への義務というものだ」

正体がバレそうになり絶体絶命の瞬間の、主人公の覚悟と矜持。

 

作品の中の日本

三菱製呼吸装置

火星には地球と同じように都市が栄えていて、多くの地球人が滞在しています。火星の空気成分は地球とは大きく異なるため、地球人が呼吸器無しで歩行できる距離はおそらく1kmが限界とされています。このため火星で活動する地球人には呼吸装置が不可欠です。三菱製呼吸装置はヘルメットが不要で簡便に装着できることから、登場人物たちを含め愛用者の多い人気製品となっている。

 

火星人

第二次世界大戦までの日本人がモデルじゃないですかね?

火星人は礼法の権化で、あらゆる場面に何かしらの決まり即ち礼法があり、これを破ることは万死に値する、と描かれています。

ボンフォートが「入巣の儀」で盃を交わそうとしている最有力貴族ククカー族には、こんな逸話があるほどです。

昔ククカー・グラル・ザ・カンガという青年がいました。彼はある儀式に出席しなければなりませんでしたが、全く彼に非はない事象が原因で、定刻に現れることができませんでした。火星の礼法ではこれは死に値します。しかしククカー・グラル・ザ・カンガーが非凡な青年で輝かしい業績の持ち主であったため、彼の罪は許されました。しかしこれを不服とする青年ククカー・グラル・ザ・カンガーは、自らに対する訴訟を起こして死刑を求め、礼法を全うして死んだのでした。

実際物語の中でも火星人は「義理と義務を重んじた昔の日本人など比較にならない」ほど礼法を重んじる、と説明されています。

ちなみに子どもは大変愛されていて、礼法の適用対象外として自由に振る舞うことが許されています。ここも日本っぽいですね。

 

火星人の「入巣の儀」

ほぼ任侠道の、盃を交わす儀式ですね。

火星人の「生命の杖」

日本の武士の刀がモデルではないですかね?

火星人は「生命の杖」と呼ばれる杖を常に持ち歩いています。この杖は火星人の名誉を象徴するもので、彼らにとっては魂のように尊いものです。しかし同時に武器でもあり、先端から熱線を放ち、敵の土手っ腹に大穴を開けることができる物騒なしろものでもあります。

 

火星人の容姿

ちなみに火星人の容姿ですが、木の幹にヘルメットをのっけたようなしろもので、その木の幹のような胴体からは、穴から這い出してくるへびを思わせる、にょろにょろとした偽肢が何本も生え出ている、と描写されています。

また火星人は、頭を回さずにいっぺんに前後左右を見ることができます。

 

感想

 「ゼルダ城のとりこ」との類似性

あとがきによると、評論家ブライアン・オールディスは、この作品と「ゼルダ城のとりこ」の類似性を指摘しているそうです。「ゼルダ城のとりこ」はアンソニー・ホームの1894年の作品で、舞台は戴冠式を目前に控えた陰謀漂うルリタニア王国。ここに偶然飛び込んだ国王に瓜二つの英国の快男子が、大冒険を繰り広げるというお話だそうです。

 

影武者徳川家康」そっくり

管理人は、隆慶一郎の1989年の作品「影武者徳川家康」にそっくりだなぁ、と思いました。少年ジャンプで漫画化もされたので、ご存知の方も多いかと思います。

類似点を挙げると、こんな感じですね。

 

  • 本人が不慮の死を遂げてしまったため、替え玉を続けなくてはならなくなる

 「ダブル」ボンフォートの拉致監禁

 「影武者」家康の暗殺

 

  • 側近は替え玉の事実を知っている。

 「ダブル」ブロードベント船長。ボンフォートの親友にして勇敢なる大男。ロレンゾに替え玉を依頼。

 「影武者」本多正信。家康の忠臣にして猛将。二郎三郎に影武者を依頼。

 

  • 内部関係者が暴露を試みるが失敗する

 「ダブル」報道官コープスマン。

 「影武者」徳川秀忠。後の二代将軍。

 

  • 超重要人物に正体がバレるが、逆に味方になる

 「ダブル」太陽系帝国皇帝ウィレム。ボンフォートの親友

 「影武者」お梶の方。家康の側室。絶世の美女

 

  • オリジナルを愛する美女と、やがて愛し合うようになる

 「ダブル」美人秘書ペネロピ。

 「影武者」お梶の方。

 

  • オリジナルならどう判断しどう行動するかを考え抜き、重要な局面を乗り越えていくうちに、やがてオリジナルそのものとなっていく

 「ダブル」暫定内閣の組閣。総選挙で「行動派」に勝利。

 「影武者」江戸幕府を開く。駿府城から政治を主導。

 

「影武者」を楽しんで傑作だと思った方(管理人もその一人です)には、この「ダブル・スター」はお勧めです。もう一度あの興奮・楽しさを味わえます。

 

なお「影武者徳川家康」がパクリだと言いたいわけではありません。この種の設定は一種のテンプレートとして定着しており、他にも同様の設定の作品があるようです。

 


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