【SSF】S級SF作品を探して

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『大宇宙の少年』ロバート・ハインライン【ヒューゴー賞 1959年】

[評価 = S級]

 

 

あらすじ

進む月開発

舞台となるのは、自由国家連邦宇宙軍の月基地建設が完了してからしばらくの時が過ぎ、今や民間人の月進出が始まった近未来です。

月面には小都市「ルナ・シティ」が構築され、急速に発展し始めています。

 

高校生キップ

キップは月に行くことを強く夢見ている少年です。

現状では、月に行くためには、軍人として空軍に入隊し月基地に配属されるか、あるいは民間人として優秀な電車工学者になり月に派遣されるチャンスを掴むしかありません。

キップは後者を望んでおり、工学系の学部への大学進学を希望しています。科学者ラッセル博士の一人息子でもあり、素質はあるようです。

 

月世界旅行が当たる懸賞

そんなある日、月への商業飛行解禁が発表されます。早速いくつかの大企業が、優勝者に月世界旅行が当たる大々的な懸賞を開催します。

キップは懸賞の一つに応募しますが、手に入れることができたのは残念ながら優勝商品の月世界旅行ではなく、副賞の中古宇宙服なのでした。

 

宇宙服の修理と改造にのめり込むキップ

当初は落胆するキップですが、やがて「オスカー」と名付けたこの宇宙服の修理と改造にのめり込むようになります。

 

宇宙人との邂逅

完全に機能を取り戻した宇宙服を装着して、自宅裏に広がる草原を歩き回るキップ。

すると無線機に宇宙船からの着陸誘導要請が飛び込んできます。夜空を見上げると、追う宇宙船と逃げる宇宙船が急降下してきます。

着陸した終われる側の宇宙船から走り出して逃げたのは、地球人の少女「パトリシア」と、豹のような兎のような、優しげな姿の小型の宇宙人「ママさん」の二人でした。

 

囚われるキップ

キップは少女達と共に、もう1機の宇宙船から飛び出して来た追っ手に捕らえられてしまい、宇宙船に押し込まれ、宇宙に連れ去られてしまいます。

キップたちを捉えた宇宙生物は、口の周りにミミズのような器官がびっしりと生えていてそれが常時蠢いている、恐ろしい容姿と残忍な性格の、しかし高度な文明を持つ宇宙人でした。

キップはこれを「ワーム・フェイス」と名付けます。やがてワーム・フェイスの地球侵略計画が明らかになっていきます。

 

そしてクライマックスへ

少女パトリシアと「ママさん」の正体は?彼女達は何故追われていたのか?ワーム・フェイスの地球侵略の目的は?これを阻止する方法はあるのでしょうか…?

 

名言集

ロバート・ハインラインの作品の特色の一つは、非常に多数の名言が作品中で語られることですね。

 

今は収入は少ないが、嫌なことは何も無い

「かつては私も収入が多かったが、嫌なことも多かった。今は収入は少ないが、嫌なことは何も無い。私はここにいますよ」

主人公キップの父、ラッセル博士の返答。ワシントン勤務(快適な冷暖房付きオフィス)のオファーを電話で断りながら。

確かに収入の多い仕事は、嫌なことも多いですね〜。

 

「計画的に努力するんだぞ」


「統計の世界に対抗するには、充分な準備をするかどうかだけだ。…計画的に努力するんだぞ」

石鹸会社が企画した懸賞に当選して月世界旅行に行くと決めたキップに対する、父ラッセル博士の助言。

キップはこの助言を守り、応募券(対象となる石鹸の包み紙)を六千枚近く集めることに成功します。

 

「こんなことでやきもきするんなら、銃殺隊を前にするときは、どうやって穏やかにしているつもりだ?」

懸賞の結果発表の中継放送の直前の主人公キップの異常な緊張を見て、父ラッセル博士が言う言葉。男なら銃殺刑でも取り乱したくないものです。


「ぼくはただ、終わってくれればいいと思っているだけなんだ」

懸賞の結果発表の中継放送の直前の、主人公キップの心境。試験の合格発表の結果を見るときの気持ちって、ほんとコレ!


「生き抜くために大切なのは、不可能なことにくよくよせず、可能なことに全力を集中すること」

パトリシアの言葉。とらわれの身で。


「人間の屑として生きるより英雄として死んだほうがマシだ」

キップの言葉。自分が脱出に成功するだけでなく、パトリシアとママさんも必ず助けると決意して。

 

一匹は、見込みがないことを知り、諦めて溺れ死んでしまう。もう一匹は…

一匹は、見込みがないことを知り、諦めて溺れ死んでしまう。
もう一匹は、あまりに愚かなため自分の負けがわからず、そのままばちゃばちゃ暴れ続ける。何時間かするとだいぶかき回したためにバターの島ができる。そこに乗って涼しくのんびり浮かんでいると、いつか乳搾りの農婦がやってきてつまみ出してくれる。

クリームの壺に落ちてしまった二匹のカエルの話。愚かに見える悪あがきが幸運に繋がることがあるというお話です。


問題を分析できると、三文の二は解決したことになるのだ

脱出を模索するキップの言葉

 

「<平凡>は<最上>よりも良いと主張する手合いがいる」


「<平凡>は<最上>よりも良いと主張する手合いがいる。連中が翼をちょん切って喜ぶのは、彼らが自分では飛べないからだ。彼らが学者を軽蔑するのは、自分の頭が空っぽだからなんだな。つまらんことだ!」

キップの父ラッセル博士の言葉。天才の足を引っ張る凡人を批判して。


「悪い知らせは、二杯目のコーヒーが済むまで絶対に知らせるものじゃないってパパに言われてるし」

キップを見舞いに来た少女パトリシアの言葉。まず良い知らせを伝えた後、まだ話があるのではないかとキップに問い詰められて。

 

尊敬に値しない年長者ほど、それを年少者に要求する

イウニオは愉快だったー意見を合わせ、侮辱を無視し、譲歩している限りはだ。多くの年寄りたちは、39セントのタルカム・パウダーを一缶買うときにまで、そういうことを要求する。…尊敬に値しない年長者ほど、それを年少者に要求するはずだ。

尊大な人物イウニオに嫌な思いをさせられ、バイト先でよく経験した、年寄りがやってきがちなカスハラを思い出すキップ。

 

「”幸運”は周到な準備の後についてくる。”不運”はだらしなさからやってくる」

とにかく何事も準備が大切ってことですね。

 

感想

宇宙服の修理とカスタマイズが実にリアル

物語の前半では高校生キップが、懸賞でもらった中古宇宙服を、少しでもリアルを味わうために、夢中になって修理・カスタマイズします。

これらの修理・カスタマイズは、地元の工場やジャンク・パーツ・ショップを足繁く探し回って掘り出し物を見つけ出しながら、高校生の小遣いの範囲内で少しずつ実現されていきます。

使用する代替部品、修理方法などの過程がとてもリアルに、かつわかりやすく描きこまれていて、ワクワクさせられます。

作者は実際に宇宙服を修理した経験があるのではないかと錯覚させられますが、これが1959年の作品だということを鑑みると、このリアリティには本当に感心させられます。

 

とにかく血の気が多くて短気な主人公たち

ワーム・フェイスに囚われて、ただじっと座して死を待つだけなら全く物語になりませんし、主人公をとにかく行動させなくてはなりません。

なので理解はできるのですが、高校生のキップと小学校高学年パトリシアが、ありえないくらい短気で好戦的だなあと思います。

現実にいたら引きますね。白人は怒りっぽいと聞いたことがありますが、英語圏の読者にはこれくらいは違和感ないということなのでしょうか。

 

最後の地球審判はちょっと唐突

このくだりは、なくてもよかったのでは。

キップたちが悪のワーム・フェイスから無事救い出されるところで話が終わってもいいかな、と思いました。

 


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