【SSF】S級SF作品を探して

ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞作品の詳細なあらすじ、作品中の名言、管理人の感想などを書いていくブログです。

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【あらすじ】『三体』劉慈欣【ヒューゴー賞 2015年】

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劉慈欣2015年ヒューゴー賞受賞作『三体』の、書評です。

 

[評価 = S級]

 

 

あらすじ

紅岸基地は、巨大レーダー施設に見える。しかしこの基地に設置された巨大アンテナは、受信よりもむしろ送信能力重視だ。25ギガワットの強大な電波を送信する能力があり、運転中はこのアンテナが指向する空を通り過ぎようとした渡り鳥の群れが皆バタバタと落ちてしまうほどだ。

当初紅岸基地は、米帝ソ連の宇宙衛星を攻撃・無力化する電磁波兵器の実験施設に思われた。しかしこの基地の真の目的は、米帝ソ連に先駆けて宇宙の知的生命体を発見し、彼らとのコンタクトを中国が独占することにより、世界で圧倒的に優位な立場に立とうというものなのであった。

やがて遂にこの基地は、「三体」世界人とのコンタクトに成功する。いや成功してしまったと言ったほうが正しい。

三体には太陽が3つある。それぞれの太陽の動きは完全に不規則なように思われる。太陽が極端に近づくと地上の全てのものは燃え上がってしまうし、太陽が長期間出ないと逆に凍りついてしまう。いずれにせよ文明は滅びてしまうのである。

三体世界人は、文明が再興するたびに、三つの太陽の動き、すなわち三体運動の法則を見つけ出そうとして来た。滅びと再興を繰り返して現在の文明は二百数十代目に達しているが、しかし三体運動の法則は未だに発見されていない。

今や三体世界の人々は、三体運動の法則発見は殆ど諦め、現在は移住可能な別の太陽系を発見しこれを侵略することに希望をかけている。移住可能な太陽系を発見するために、三体世界人は無数の電波送受信装置で、宇宙空間にメッセージを送り続けていたのであった。

遂に三体世界人に発見されてしまった地球。三体世界人の侵略計画が始動した…!

 

作品の中の日本

申玉菲

中国系日本人女性で物理学者。三菱の研究所出身。夫は数学者で三体運動理論の研究者の魏成。

 

自衛隊

三体世界人との人類の存亡をかけた戦いのために、警察や軍により構成される超国家レベルの極秘組織が、中国を中心として組織される。米軍、NATO軍、CIAなどとともに、自衛隊も加わっている。

 

感想

難しそうな物理学がたくさん登場しますが

高エネルギー粒子加速器やら陽子コンピュータやら、非常に難しそうな物理学の事項が多数登場します。物理学の知識が無いと読めないのでは?という不安を覚える方もいると思います。しかし、全く心配ご無用です。全てのキーワードは数式など一切使わずに非常にわかりやすく記述されていますので、どんなかたでもフンフンと興味深く楽しみながら読み進めることができます。

 

SFを書くのも大変な時代になりましたね

ただ、書くほうは本当に大変でしょうね。物理学や最先端技術についての幅広い教養や知見が無いと、とても書けない小説に思えます。もちろん作家さんが理系である必要は必ずしも無いと思いますが。「夏のロケット」もそのようなタイプの小説ですが、作者の川端裕人氏は教養学部卒で、テレビ局の記者として科学系の取材を担当されていた方ですね。

 

60年代はのどかなSF時代でした

 それにしても、ちゃんとした科学知識が無いと小説が書けなくなっているとは、SF界も様変わりしたものですね。本ブログではまだ1960年代のヒューゴー賞受賞作の紹介がメインになっていますが、この頃の作品は、ちょうどいい高さに静止して浮かんでいて脚が無い磁力テーブルなど、想像力だけで書けそうな内容がまだまだ多いですね。

 

次に来るのは中国のエンタメなのか?

作品のプロローグは、主人公級の登場人物の家庭を襲った、文革の狂気による惨劇を克明に描くところから始まります。この作品の作者は中国人ですが、香港人でも台湾人でもなく、本土の中華人民共和国の中国人です。こんなことさえ書くことがお上から許されるようになっているのであれば、今後は中国から優れたエンタメが次々に出てくるようになってしまうでしょう。ヤバイな、日本…。

 

影が薄い日本

物語に登場する高エネルギー粒子加速器は、物質の構造(その内部に十二次元が折り畳まれていると言われる)を解き明かすための巨大設備ですが、莫大な費用をかけて建造しなければならないため、米国とEUと中国の世界3箇所にしかなく、中国の加速器では大勢の中国人科学者たちが物質の謎を解くべく日夜研究に勤しんでいる設定になっています。なんかクヤシイ…。

ただ、意識的に日本を排除している印象も受けますね。ゴーストカウントダウンで登場するデジカメはソニーではなくポラロイドだし(「ごく普通のポラロイド社のデジカメ」みたいに説明されているが、それ普通???)、フィルム式カメラはキャノンでもニコンでもなくライカだし。サーバーはHPで、車もゴルフでした。日本製品を登場させると、中国人読者の反発を買いかねないのでしょうか???

 

「三体」は三部構成

脱線しましたが、「三体」は三部構成になっています。本作は第一作目にあたり、地球が三体世界からの侵略の脅威に晒されていることが明らかになります。第二作「暗黒森林」ではいよいよ三体世界からの侵略が開始され、第三作「死神永生」では地球の反撃が描かれるとのことです。

 

一作目はゲームの説明書を読んでる感じ

第一作目は、物語の世界観と基本設定の説明が中心というのが正直な感想です。ゲームの設定を読んでいる印象です。それでもここまで面白く読み切らせる筆者の腕前は大変なものだと思います。物語を愉しむ観点からは少し物足りなさを感じますが、それは二作目・三作目に大いに期待したいと思います!


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